神経伝達物質へと変換
グルタミンは非必須アミノ酸の一種で、中枢神経系において重要な興奮性神経伝達物質の一つである『グルタミン酸』へ変換される前駆体となります。
他にも主要な神経伝達物質として、アセチルコリン、ノルアドレナリン、ドーパミン、セロトニンなどがあり、それぞれ「学習や記憶」「覚醒と睡眠」「行動や気分の制御」など、脳機能において重要な役割を果たしています。
中でもグルタミン酸は学習と記憶に深く関わっており、脳の興奮性神経伝達物質の約80%を占めています。
シナプス可塑性 ーsynaptic plasticityー
私たち人間の脳は、神経細胞同士が電気信号(インパルス)を伝達することで働いています。
では学習や記憶を行う際には、脳内でどのようなプロセスが起こっているのでしょうか?
神経細胞がつながっている結合部位であるシナプスは、「結合の強さ」や「数」、「大きさ」を変化させることができる能力を持っており、この能力を『シナプス可塑性』と言います。
脳の神経回路は、この可塑性によって作り出され、学習や記憶の形成が行われます。
『シナプス可塑性』によって、神経回路の形成や修正が可能になり、この現象は、学習や記憶の形成だけでなく、神経回路の発達や修復、神経疾患の治療などにも重要な役割を果たしてるのです。
長期増強(LTP) ーLong-term potentiationー
シナプス可塑性には、『長期増強(LTP)』と『長期抑圧(LTD)』の2つのメカニズムがあり、グルタミン酸は学習や記憶の形成に関連する長期増強(LTP)を引き起こすことが知られています。
LTPは、「シナプス可塑性の一種」で、シナプス間の情報伝達が長期に渡って増強される現象であり、学習や記憶の定着に不可欠な役割を果たします。
※長期抑圧(Long Term Depression)はLTPと逆でシナプス間の情報伝達が長期に渡り低下する現象(記憶の消失(忘却)だと考えられる)
※シナプス可塑性「長期増強(LTP)・長期抑制(LTD)」この2つのメカニズムが交互に働くことで脳は常に最新の状態へアップデートされている
血液脳関門(BBB) ーblood brain barrierー
では「グルタミン酸を直接摂ればいい」と、思われるのですが、脳には外部からの有害物質や微生物から守り、特定の栄養素や酸素しか通過させない『血液脳関門』と呼ばれるバリアが存在し、グルタミン酸は通過することができないのです。
グルタミンは血液脳関門を通過できる限られた成分の一つで、細胞がグルタミンを取り込んだ後、グルタミン酸へと変換されます。
したがって、グルタミン酸ではなくグルタミンの摂取が必要なのです。
脳の可塑性
私たちの脳は「一生を通じて成長し続ける」驚くべき器官です。
学習やトレーニング、新しいスキルを学ぶことによって、脳は刺激され、『脳の可塑性』が促進されます。
「シナプス可塑性」は『脳の可塑性』を支える重要なメカニズムの1つであり、シナプス可塑性が脳全体の可塑性につながります。
経験や学習に応じてシナプスの結合の強さや効率が変化する現象であり、これにより情報伝達が効率的に行われるようになり、新しい情報の取り込みや記憶の形成が可能になります。
これは脳の成長・活性化に欠かせない重要なメカニズムであり、それを促進するためには、グルタミン酸が不可欠なのです。
グルタミン酸の前駆体であるグルタミンは、人間の体内で合成が可能であり、食事からも容易に摂取できることから非必須アミノ酸とされてきました。
しかし実際には「熱に弱く、生または生に近い状態」でしか吸収されないため、多量で高カロリーな食事を必要とし、容易に摂取することができません。
また、偏食による「たんぱく質の不足」や「腸内細菌の乱れ」によってグルタミン不足になる可能性もあります。
以上から、グルタミンは「体内で合成可能であるが、特定の状況下で不足する可能性がある」準必須アミノ酸に分類されており、サプリメントでの摂取が推奨されているのです。
グルタミンを摂取することで、脳の可塑性を高め、学習力や記憶力を改善することができるのです。
あなたの脳を活性化させ、最高のパフォーマンスを発揮するために欠かすことのできない成分と言えるでしょう。
※ADHD(注意欠陥多動性障害)や自閉症は、一般的に発達障害といわれ、胎児期に神経回路の発達が正常に働かなかったこと、つまり脳の発達期にシナプス可塑性がうまく働かなかったことが主な原因として考えられています